「海岸のトンネル」
麻布の現役老人さんの投稿
 (投稿原稿を参考にMoMoが再構成しました)


今から、約50年前の夏の思い出です。

5人の仲間と、夏休みを利用して、
福井の越前海岸にキャンプに行ったときの出来事です。

午前中は天気は快晴、
真夏の太陽が、これでもかと言う様に輝いていました。

キャンプのテントも張り終えて、
食事の用意に取り掛かりました5時過ぎ、
突然、風が強くなり、あたりは、瞬く間に暗くなり、
同時に、ものすごい勢いで、雨も降ってきました。

我々のテントは海岸沿いの道のわきに有りました。
空き地に張ってありました。

下は岩場で、テントを張るような余地はありませんでした。

2時間ばかり、
皆でテントの中で、雨の止むのを待っていたのですが、
とても止むどころの様子はなく、
皆ずぶ濡れになり、気温も急激に下がり、

「これでは、朝までは居られない」

・・・と言う事で、皆の意見も一致して、
海岸沿いにある漁師村まで、引き揚げることにしました。

自転車に手分けして荷物を積み、
海岸通りを行きますと明かりが見えてきました。

そこには岩場をくり貫いたトンネルがあり、
その入口に灯りが見えます。

「おい、一度、あそこで雨宿りしようぜ。」

・・・と近づいていくと、
その灯りはトンネルの照明ではなく、
雨宿りの先客の懐中電灯か何かのようです。

「雨宿りしている人がいるみたいだな」

・・・と、
それとなく明かりの主を見たのですが、
明かりが小さくて顔はよくわかりません。

ただ、
何となく時代が違う雰囲気というか、、
まるで時代劇でみたいに、
蓑を着ていて笠を被っている感じなんです。

「変だな」

・・・と思いつつ、さらに近づいていくと、
その人影が

「戻れ」
「このトンネルには来るな」

・・・といった素振りをするのです。

言葉は聞こえないのですが、
灯りの動きがはっきりと私達を拒否しているのがわかります。

「何だ、こいつ。 変な奴だな」

・・・と、
少し不愉快な気分になったのですが
次の瞬間、

50m程先の新しいトンネルの方から

「こっち、こっちだ。 早く、早く!」

・・・と、
幾つもの灯りが見えて、私達を呼ぶのです。

まぁ、私達としては変な人がいるトンネルに行く必要もないので、
50m先のトンネルに向かいました。

しかし、
その新しいトンネルに入ると、灯りもなく、誰もいませんでした。
(トンネルの照明があるだけです)

私達はトンネルを抜けて、漁村に宿を求めました。

翌日、
新しいトンネルを抜けて、
昨夜、テントを張っていた海岸に向かったのですが、

変な人がいた、
岩場をくり貫いたトンネルはどこにもありませんでした。